カントクたちがAVを撮る理由


第46回 ながえ(後編)
「ヘンリー塚本の背中に親父を見た」

前編はこちら→「少年の絶望を救った映画とAV」

ヘンリー塚本から多くを学び、常にその背中を追い続けた、ながえ監督。FAプロでの仕事は楽しかったが、まだ20代の青年には、中高年ユーザーのハートが見えていなかった。

──ぶち当たった壁というのは、FAプロ作品のお客さんである中高年の気持ちがわからないということでしょうか?

「かわいさとみしか見てない26歳の若者が、中高年に向けて何を描けるの? っていうことですよ」

──人生経験もないわけですからね。

「ヘンリー塚本は誰の下にもつかず、独学でやってきた人です。でもその独学の観察力が半端ない。僕が映画の学校でも学んでいない細かいところまでこの人は勉強してるんだなって気づいたとき、そこで尊敬の念をいだきました。胸をえぐられるような厳しいこともいわれて、頭にきたことは何度もあったけど、なぜか耐えられました。おそらく無意識のなかで自分が母子家庭で育ったということもあって、僕はヘンリー塚本に親父(おやじ)の姿を見ていたんだと思います」


──その親父の背中を追いながら学んでいったと。

「中高年の好きなAVを若造が知るわけがないから、どうやって戦うかといったら真似するしかない。自分のエゴなんて通用しないから。何の根拠もないけど、ヘンリーさんがこうやっていたから俺もこうやろうっていう撮影が続いていったんです」

──口で教わったことは?

「できあがった作品を批判するのみです。それよりも現場で教えられることが多かったです。撮るたびに『あの人がいいたかったことはこういうことだったのか……』と批判されたことの意味を解釈していった。単に腹が立って反発するのではなく、『なぜあんなことをあの人はいったのか?』と僕はいつも考えていました。FAに入って監督をやりたがる人は過去にもいたようですけど、僕みたいにしつこく追いかけてくる人間はいませんでしたから、おそらくヘンリーさんも教えていて嬉しかったんじゃないかと思うんです」

──共同監督作品もありましたね。

「『ながえ、今度俺、時代劇やりたいからお前も半分撮れよ』みたいな感じで、オムニバスの合作をやったときも喜んでましたからね。『これは俺とお前で撮ったんだよな』って感じで。なんだろ、ヘンリーさんは孤独だったのかなと思うんですよね」

──自主映画とAVが、ながえ監督の中で占める位置は変わらないですか?

「ヘンリー塚本を尊敬して憧れてはいたけど、どこかにまだAVに身を捧げきれない自分もいて、自分が本当に作りたいのは自主映画だと思っていました。でも、自主映画の仲間もバラバラになっていって、作りたいものを作れずダラダラと時間が過ぎていくなかで、もうAVに本腰を入れて頑張ってみようと思ったんです」

──でも、AVやってお金が貯まったら自主映画を撮ろう、というスタンスは今もこの先も変わらないわけですよね?

「変わらないですね。要は、ヘンリーさんはAVひとつで稼いで自分の王国を築いたから、自分も王国を築いたら好きなもの撮れるんじゃないかとは今でも思っています。そしてそれが可能になりつつあります」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──それで2006年に独立するわけですが、我々AVライターは『ビデオ・ザ・ワールド』誌で、FA時代の後半にジョージ長井から名前を改めたながえ監督作品と出会って感動したんですよ。

「『ビデオ・ザ・ワールド』には何度も監督賞、作品賞をいただきましたねぇ」

──で、最初に衝撃を受けたのが2002年の『禁じられた愛欲 かけおち』(FAプロ)。幸野賀一さん主演のね。

「そうそう。これは僕も好きな作品ですね。一番最初にヘンリーさんに見せたとき、『お前これよかったぞ』って感動してくれたんです。世間に評価してもらえるのは嬉しいんですけど、その前にヘンリーさんにチェックしてもらい、そこで彼に『お前よかったぞー』って褒められるときが一番嬉しかったですね。この人がバロメーターだから」

──で、この『〜かけおち』の4年後、SIDE-B、イコールながえSTYLEを設立されるわけですね。

「そうですね。問屋の営業マンと2人で始めたんです」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──何でSIDE-B名義に?

「その問屋が持っていたSIDE-Bというメーカーがあって、それをもらったんです。でもイメージを一新するためにながえSTYLEのレーベル名を前面に出しました」

──当時、リリース本数は?

「月3本でした」

──当初はどういう路線で商売をと考えたんですか?

「自分がFAで培ってきたものをそのままやるということだけです。FA時代に撮っていた『やりたい放題』シリーズなど、ヘンリー塚本がやらなかった面白い企画がありましたから、それらをもっと出していこうとも思っていました」

──『やりたい放題』シリーズはいろいろなシチュエーションが登場しますが、『将軍様』(ある日、冴えない男の前に謎の帽子が現れ、それをかぶったら周りが全員「将軍様!」とひれ伏してヤリたい放題)ネタなど、どれも面白い!

「あと、いきなり時間が止まるやつとかね」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──うだつの上がらないサラリーマンが、急に周りの時間が止まって女体にいたずらし放題になる。

「時間よ止まれネタは、他社でもやっていますけど、僕が先駆者なんですよ」

──そういえばそうですね。

「FA時代からやってましたからね。あと『やりたい放題』シリーズで僕が気に入ってるネタは、自分がこの世界の人々すべてから無視されるやつ」

──だから周りの女とハメ放題。あと、透明人間物もFA時代からやってますよね。あれを初めて見たときはびっくりしました。

「あれは透明人間じゃなくて全身が半透明のバイブなんですよ。つまりバイブ人間(笑)。あの当時、正攻法ではヘンリー塚本には勝てないと思ったので変化球をバンバン投げていました。たまたまCGをかじっていたこともあってあのバイブ人間が完成したんです。あの作品も『ビデオ・ザ・ワールド』で受賞することができて、業界初のCG映像として衝撃を与えられたんじゃないでしょうか。ただ、ユーザーのためになったかどうかはわかりませんが(笑)」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──シリーズ物でない作品だと2006年の『私を好きにしてください… 純情メイド物語』(ながえSTYLE)がすごい名作です。

「捨てられたラブドールには魂があったという話ですね」

──ユーザーは、メイドと中年男がSEXする日々のAVだと思って見ていたら、最後のオチで、AV女優が演じていたメイドは実はラブドールで、すべて男の妄想だったという。どういうところからあんなアイデアが?

「何となく生まれた話ですね。まずメイド物をやりたいなと思ったんです。メイドカフェが盛り上がっていた時代で、メイド物のAVが多かったんですよ。とはいえ、ただのメイドではつまんないなと思ったんで、この話が浮かんだんです」

──この10年間で、ながえSTYLEの作品はどう変わってきていますか。

「昔は思いついたものを撮って適当なタイトルをつけて出していたんですが、今は全然違いますね。どんな性癖の人にマッチするかっていうところから話を作るという感じです。どの性癖の人が見たい作品なのかという。そこを突き詰めさらに研ぎ澄ませていく。むかしはいろんなジャンルに挑戦してきましたが、これからは人妻の性を中心に描いていくものになります」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──DVDの背表紙に、たとえば今月スカパー!アダルトで放送中の『愛してるあなたへ。本当は… 〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜 成宮いろは』(ながえSTYLE)の場合、タイトルの上に『背徳』『不倫』とジャンルが併記されている。こういうのはいつからですか?

「最近です。人の性癖って細かいじゃないですか。『寝取り・寝取られ』とひとことでいっても、旦那が浮気されるものと、旦那さんが趣味で奥さんを他人に抱かせるというのではユーザーの嗜好が明らかに違います」

──お客さんがわかりやすいようにとの配慮なんですね。お客さんの声を作品に反映させるようにもなってきたんですか?

「これは迎合という意味ではなく進化です。むかしのながえSTYLEはユーザーに対して不親切でした。良い物をもっと広めていくためにはそういった配慮は必要不可欠です。僕はそれをこの10年間で学びました。今はながえSTYLEの販売サイトからメールフォームにいけるし、発行しているメールマガジンからもすごい数のアンケートをいただいています」

──具体的にどういう意見がありましたか?

「最近でいうと、老人物を求めていらっしゃる方からとても熱い意見をいただいています」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──どこのメーカーも老人物は多いですね。

「性欲はあるけど勃ちはよくないというのが老人だろうと思い込んで、そう描いてたんですけど、ユーザーのニーズとは違ったんです。介護みたいなものは見たくない、出てくるのはたとえ老人でも40、50代ぐらいのチ●ポビンビンの男として描いてほしいというんですよ」

──なるほど。

「普通のギラギラした男と変わらない恋愛、不倫、寝取り、そういう物を作ってほしい。老人のリアルなんて見たくない、ファンタジーにしてくれという声を受けて生まれた企画が『もう老人しか愛せない』シリーズ(富丈太郎監督)なんです」

──そういう経緯があったんですね。監督が性的に興奮するシチュエーションとは?

「僕の場合は不謹慎な状況ほど興奮しますね」

──葬式の席でハメ撮り放題とか。

「実際の葬式ではそんな気分にはならないのですが、これが視聴者として、または覗く側として第三者側に立つと興奮して見ることができるんです。こんな真面目な状況でハメを外すことになったら……というふうに。ネガティブな思考は性欲と表裏一体なんだと僕は思います。あとは不甲斐ない中年男が見るエッチな夢は、同類の僕も共感しています」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──そうか、不甲斐ない中年男の僕がながえワールドにハマるのも無理はないわけですか。FAでの修行から始まって、現在、ヌケるカラミを撮るためにこだわっている部分は?

「顔ですね。顔がすべてですよ。心の底から気持ちのいいときの崩れた顔がいいんです。それは男が本能的に興奮させられる顔です。たまにSEXに興味のない女優と仕事をしてしまうときがあるんですが、SEXをすると『しかめっ面』みたいになってしまうんですね。普段は綺麗な人なのにSEXをするとしかめっ面のブサイクに変わる。そんながっかりした経験ありませんか? 僕からいわせれば、それは相手の男性と心を通わせていない身勝手な顔に見えて仕方がない。だから演出で表情を作り変えます。『眉間をハの字にして、力を抜いたような緩んだ顔をつくってみて』というふうに。それをするだけでエロチシズムを感じるいい女に変化します。経験豊かな中高年男性はそういう女の表情を見ながらSEXがしたいんです」

──なるほど。そういったエロく見せるという点では、女優のスキルは近年ずいぶん上がってきてますよね?

「今の女優さんは昔と違って表現力が豊か。普通に演技できちゃう。SNSで自撮りしてアップするのが当たり前になったことなどもスキルアップの一因でしょうね。昔の女優さんはセリフ棒読みだし、やらされてる感がありありだった。それを自然に見せるようにFAプロは細かい演出をしています。だから、今ドラマ物を撮っている監督は楽だと思います。女優さんが表現してくれるから、カメラ長回しでほとんど撮れちゃうでしょ。逆にいうと、それに頼りすぎちゃってつまらない演出になってるというのもある。まあそこはこだわりの強さになってくると思いますが、たかがAVでも僕は大変な道を選びます」


「【背徳不倫】成宮いろは 愛してるあなたへ。本当は…〜お隣の旦那さんに慰めてもらってるの〜」(プレイボーイ チャンネルHD)

──あらためて、ヘンリー塚本作品やながえ作品では、同じ女優でも他社作品では見せない顔を晒すので毎回ドキッとさせられます。

「今は女優さんのスキルが高いから、好きに演じさせて、みんな『いいねー』っていう傾向があるじゃないですか。その『いいねー』は、覚えたセリフを全部いってくれるなんてキミは出来るねありがとうねみたいな感じだけど、僕はそうじゃない。ごっこでやるならAVにドラマは必要ないと思っています」

──うん、そういうことでしょうね。

「演技が上手といわれている女優さんに僕がダメ出しすると『なんで?』みたいな顔をする。『よそではこれでオッケーもらってたのになんで?』みたいな。だから、僕的には演技は下手でも素直な女優さんのほうが作りやすいです」

──うーん、ますます納得です。

「私は演技に自信ないから、私を連れてってくださいっていう女優さんのほうが、いいものができますね。そういう素直な女性は異性に対しても素直だし、SEXをしてもいい表情をする。内面が女を美しくするとはよくいったものです」

──ながえ作品のヒロインが魅力的なわけがすごくわかりました。では最後に、ながえSTYLEというか、ながえ監督作品は今後どう変わっていくのでしょう。

「今後は人妻の性を深く追求していくメーカーになっていくと思います。あと最後に、いいたいことがあります。僕はインタビューの冒頭で、仕事とは『やりたくないことを我慢してするもの』という意味合いでいいました。家も貧しかったですし、たった一人の母親を養うために自分が犠牲にならないといけないと思い込んでいました。ですが今はこうして好きな仕事ができて母も自分の家族も養うことができています。もしこれを読んでくれた方で私と同じ悩みをお持ちの方がいらっしゃるのなら、人のために犠牲になるという考えは捨て、自分が一番やりたい仕事に就くことをお勧めします。そこに本気と覚悟があれば僕もそうだったように必ず人は救えます。才能があろうとなかろうと自信があろうとなかろうと関係ありません。好きなことに『しがみついて』ください。ありがとうございました!」

──どうも、ありがとうございました!

Profile

ながえ
1969年愛知県生まれ。母子家庭に育つ閉塞感を映画鑑賞で慰める思春期を送る。高2の秋に手に入れた8ミリカメラで映画製作の喜びに触れ、高3で一念発起し映画界を目指す。1987年に日活芸術学院入学。1995年にFAプロ入社。同年に監督デビューし、以後ヘンリー塚本監督に師事。2006年に独立し、AVメーカー「SIDE-B」を設立。凝った設定やストーリー展開のドラマ作品にファンが多い。

Profile

文・沢木毅彦
さわき・たけひこ 1961年生まれ。フリーライター。AV草創期よりAV専門誌にレビュー、取材記事を寄稿。月刊誌、週刊誌、WEBで細々と執筆中。香港映画と香港街歩きマニア。ビールは香港の海鮮屋台で飲むサンミゲル(生力)とブルーガール(藍妹)が最好。
twitter:@berugiisan

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