せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第5回「AV女優のサイン会」

 先日、足立紳監督の『14の夜』という映画を見た。町にあるレンタルビデオ店でAV女優のサイン会が開催されるという噂が広まって中学生達が色めき立つのだが、それを見た時あることを思い出した。自分にも似たような経験があったのだ。

 高校生の頃に住んでいた町のはずれにレンタルビデオ店があって、そこでAV女優のサイン会が行われるらしいと友人が言った。どうやってその情報を得たのかは覚えていない。当時はネットなどないから、映画のように噂が広まって知ったのだろう。

 情報を得た日の放課後、さっそく友人とレンタルビデオ店に行った。自転車に乗って4キロほど進むとその店はあった。VHSだけではなくベータもきっちり並んでいる店内を見て回ると、アダルトビデオが並んでいる棚のそばにサイン会の告知のポスターが貼ってあった。写真集を買えばサインしてもらえ、しかも握手まであるという。

 田舎の町に有名人が来ることは珍しいことで、前回見たのは森尾由美で、その前はヒップアップというトリオ芸人にまで遡る。それだけで気分は高揚するのに、かつ、今で言う「接触イベント」でもあるという。しかも相手はAV女優なのだ。だからと言ってなにかあるわけでもないのだが、想像だけが大きくなった。そんな高校生の煩悩がまみれた心技体がすべて揃っているイベントである。帰り道はかなりテンションが上がっていて、いつもより立ち漕ぎが多かった。高校3年間通してもっとも将来のことを考えていない時間だったはずだ。

 イベント当日は高校生だとばれてしまうと入場させてくれないかもしれないと思って、できるだけ大人っぽい格好をして行ったことは覚えている。しかし相当緊張していたのだろう、AV女優が見せてくれた笑顔とスタッフの怖い顔以外は思い出せない。

 そういえば一緒に行った友人は自分用のテレビとビデオデッキを持っていた。当時はどちらもまだ高価であり、私の家にはビデオデッキがなかった。そのためアダルトビデオを見るにはその友人宅に行くしかなかった。

 こちらはすぐにアダルトビデオを見たいのだが、全日本プロレスが好きだった友人はテレビ中継をすべて録画していて、それを強制的に見せられながら解説を聞かされる時間が必ずあった。いつもそれを早送りしたくてたまらなかった。そんなことも思い出した。

 芋づる式に様々な記憶が蘇った私は、それらをもっと鮮明にしたくて、そのAV女優の写真集をネットで見つけ、カートへ入れた。

Profile

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

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