せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第7回「映画館のポスター」

 小学生の時に住んでいた小さな町に映画館があった。

 その映画館は基本的ににっかつのポルノ映画を上映していた。ポルノ映画以外も上映することがあったものの、その割合は9:1くらいで、もちろんポルノが9だ。

 その映画館に行けばポルノ映画が見られるわけであり、大画面で女性の裸を思う存分堪能できるわけなのだが、残念ながら私は幼すぎた。映画館に入れてもらえるわけなく、変装したところでどうにもならないことは明らかだった。早く大人になりたいと初めて思った。

 よってその映画館からは何の恩恵も受けなかった、わけでもなかった。ポスターがあったのだ。

 当時は上映中の映画のポスターが町の中に貼ってあって、ポルノ映画も例外ではなかった。人通りの多い場所にポルノ映画のポスターが貼ってあるなんて今では考えられないことだろうが、当時は珍しいことではなく、当然のように風景に溶け込んでいたのだ。

 このポスターを見れば合法的に(?)女性の裸を見ることができる。私は興奮した。

 しかし、さすがに堂々と見るわけにいかない。立ち止まってじっと見ていれば大人に怒られてしまうだろう。それよりポスターの前を通るだけで「エロい」と同級生に言われてしまう方が問題だった。次の日にはあだ名が『エロポスター』などになってしまう。

 もしも見るならポスターが貼られているところから道路を挟んで遠くからさりげなく見るか 、ポスターの前を通ったとしてもまったく興味のないふりをしつつ、思いっきり横目で凝視する方法しかない。ドッジボールで駆使した横目の出番だった。

 そういった努力を重ねて制服がどうしたとか、ナースがどうしたとか、女教師がどうしたとか、そういった独特のフォントで書かれたタイトルのポスターを目に焼き付けた。もっとも鮮明に覚えているのは『ピンクのカーテン』のポスターで、他と比べてポップで柔らかいデザインが子どもながらに淫靡に感じたものだ。

 ある日突然閃いた。「早起きしてポスターを見に行けば良いのでは?」と。朝なら人通りもないし、何も気にしないで見ることができる。さっそく私は早起きしてジョギングに行くふりをして家を出た。「ポスター見放題だ!」という気持ちが走る速度をどんどんと上げていった。

 ところがその日はポルノ映画のポスターがなくて、代わりに今度公開される『この子の七つのお祝いに』という映画のポスターが複数枚貼ってあった。見るからに怖そうな映画で、私は逃げ出した。

 帰り道にジョギングをする同級生に会った。

Profile

Profile

せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

ご契約はこちらから

ご契約はこちらから WEBなら24時間受け付け

テレビでみるなら

WEBでのご加入はこちら

スマホ・PC・タブレットでみるなら

スカパー!アダルトオンデマンド 詳しくはこちら

閉じる