せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第1回「マル秘テープ」

 中学生の頃、北海道の片隅にある田舎の町に住んでいた。その町の施設、たしか町民会館みたいな名前の建物で、定期的に激安商品を売る催しがあった。どこかの業者が各地を回っていたのだろう。

 まだアウトレットという言葉を知らず、今のように激安ショップもなく、通販も便利ではなかった時代だったから、私は毎回楽しみにしていた。

 そこでは衣類や日用品が安く売っていて、どこのメーカーでもないカセットプレーヤーもあり、ウォークマンが高くて買えなかった私は喜んでそれを購入した。一緒にチープなヘッドフォンも買った記憶がある。今聞くと音質がかなり悪いのだろうが、そんなことはどうでも良かった。安いカセットテープも売っていてまとめて買ったものだ。

 カセットプレーヤーは結構分厚くてボタンも大きいものだったが、かなり重宝した。それでLPレコードからカセットテープに録音したものや、友達にダビングしてもらったカセットテープ、録音した深夜ラジオなんかを聴いていた。

 ある時、その催しに行くと『盗聴マル秘テープ』というのが売っていた。その明らかに淫靡な響きは田舎の中学生には刺激的で、当時なぜか学校で流行っていた伸びるカラー軍手と一緒にこっそり買った。

 帰宅して、親が買い物に行くや否やドキドキしながらそのカセットテープを再生すると、なかなか期待していたような音声が聞こえてこなかった。「まあ、こういうものはいきなりエロい音声が始まるものではないのだろう」「プロレスもいきなり大技は出さないし」などと思いながらじっと待った。しかしなかなかエロくならない。ずっとどこかの家庭の夕食時の団らんだけが聞こえてくるだけなのだ。結局A面はそれで終わった。

 私はカセットテープを取り出し、裏返してB面を再生し始めた。また知らない家族の鮮明ではない話声と、食器の音、そしてテレビの音などが聞こえてきた。結局エロティックな要素は一切ないただの盗聴テープだったのだ。

 「騙された!」と思ったが、エロだとはどこにも書いてない。確かに「盗聴」であり、「マル秘」であることには変わりない。悪いのは勝手にエロいものを想像した自分だ。

 そうやって私はひとつずつ大人になった。

Profile

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。
Twitter:@sekishiro

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