せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第2回「エロ本」

 小学生の頃エロ本を見たくて仕方なかったが、見るための方法は限られていた。

 ひとつの方法として、喫茶店に置いてある『週刊プレイボーイ』や『平凡パンチ』などの週刊誌のヌードグラビアを見る方法というのがあった。しかし小学生が堂々と見るわけにはいかず、そもそも喫茶店自体子どもがひとりでいける場所ではなく、絶えず親が一緒であるからその前で見ることなどできるわけがない。漫画雑誌を選ぶふりをしてさりげなくページを開き、数秒ほど盗み見るくらいだった。

 病院の待合室にも『週刊ポスト』などが置いてあったものの、病院に行く時点でエロどころではなかったし、こちらも親が一緒だった。

 結局誰かが捨てていったものを拾う方法が良かった。外で元気に遊んでいるふりをして探せば良い。

 よく河原や橋の下で拾ったという話を聞くが、私は近所の雑木林で拾った。最初は貪欲に目につくものは何でも拾っていた。遠くから裏表紙しか見えなくてもすぐにそれがエロ本だとわかるようになっていった。やがて雨で濡れてページが開きづらくなったような状態が悪いものは拾わなくなった。漫画が多めのものも拾わなくなった。当時のエロ漫画は劇画であって、今のようなポップさはなく、どこか暗く、どこかリアルで、私小説の様なものまであって、そういったものの良さを理解できる年齢ではなかった。文章が多めのものも拾わなくなった。数年後にはエロ本の白黒ページが好きになるのだが、それはまた別の話だ。

 親に見つかったら大変なので家には持ち帰らなかった。当時住んでいた狭い住宅には自分の部屋はなかったし、隠す場所などない。一方外はエロ本の隠し場所が無限にある。私は雑木林の中に専用の隠し場所を作った。

 ある日、ほぼ新品の状態であるエロ本が数冊落ちていて私はすぐに確保した。家に帰ってテレビを見ていると雨が降ってきた。野外のエロ本の天敵は雨だ。私はエロ本のことが心配になって、雑木林へと走り、木の枝や当時は黒かったゴミ袋を使って雨が当たらないようにした。

 しかし次の日見に行くと、隠し場所は荒らされていてエロ本はすべてなくなっていた。乱雑にはぎ取られた黒いビニール袋の上に雨水が溜まっていて、そこに自分が映っていた。

Profile

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

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