










あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。
高校生になると、エロ本を入手することはかなり容易になった。絶えず同級生の誰かは何かを持っていたし、仲間内で何冊も流通していた。落ちているエロ本を探すことはなくなって、『BOMB!』や『DUNK』などのアイドル雑誌と判型(A5判)が同じであった投稿系のエロ本ならば、アイドル雑誌のようにも見えるので買うことも難しくなくなった。
その頃にたまたま『オレンジ通信』という雑誌を読んだ。最初はカラーの写真が載っているページしか見ていなかったのだが、アダルトビデオの紹介やレビューのページがあって、それを読むようになった。たしか裏ビデオや裏本のレビューもあった記憶がある。
私はそのレビューページが好きになって、ビデオを借りたり購入したりする時に絶大な信頼を置くようになった。やがて、過去のレビューも読みたくなくなり、小さな古本店の奥にあった雑誌コーナーでせっせと探しては購入するようになった。
収集癖も手伝い、入手したバックナンバーは捨てずに押入れの中に溜め込み、抜けている号を探すために別の町の古本店に行くようになった。
いつしか「自分もこういう風にレビューを書いてみたい」と思うようになった。それが初めて何かを書きたいと思った時で、もしかしたら今の仕事をやるきっかけになったかもしれないし、単に「レビューを書く仕事をやればアダルトビデオが見放題だ!」という子どもみたいな発想だけだったのかもしれない。
他にも白黒ページ目当てでエロ本を買うようになった。特に先述したA5判の投稿系のエロ本は今でも活躍しているような方々が連載していて、そこには今まで知らなかった文化があって、私はまた当然のようにバックナンバーを集めるようになった。
そうこうしているうちにエロ本が結構な数になった。
ある日、親にエロ本が何冊か見つかってしまった。居間で怒られて「全部出しなさい!」言われたので、押入れからせっせと持ってくると、そんなに大量にあるとは思わなかったようで、何往復目かで「もういい」と言われた。
結局捨てに行ったのだが、かつて自分が拾っていたようにこれも誰かに受け継がれるだろうと考え、濡れたり汚れたりしないように注意してごみ集積場の横に置いた。
数時間後見に行くともうなかった。
1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
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