せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第4回「森の洋館の女の人」

 小学生の頃、あるエロ本を拾った。

 それまでも何冊か拾っていたが、それらはヌードグラビアのページがある雑誌というようなもので、エロ要素のある本、という感じだった。しかしこの時に拾ったのは純粋にヌードしかない本で、女性一人しか出てこないものであった。オールカラーでページ数は多くなく、簡素なデザインがなぜか淫靡で、独特の空気を醸し出していていつも以上の背徳感を与えてくれた。

 詳しくは思い出せないが、ひと気のない森のようなところに洋館があって、そこに女の人がひとりでずっと誰かを待っているという設定だった記憶がある。小道具にフランス人形などもあったので、今考えるとゴシックなテーマがあったのもしれない。ポエムっぽい短文がところどころにあった気もする。

 初めて触れるタイプのエロ本であり、しかも状態も新品同様で、とてつもない宝物を手にした喜びと興奮で舞い上がっていたものの、見ているうちにエロよりもなんとも言えない暗さの方に夢中になってしまった。それまで明るくて楽しい少年漫画にしか触れてこなかったから、目の前のアンダーグラウンドさは新鮮で、かつ恐怖すら感じた。

 やがて「この女の人はなぜエロ本に出ることになったのだろう?」と考えるようになった。しかし小学生にわかるはずもなく、何度も何度も飽きるほど見たが答えはどこにも書いていなかった。

 その本は近所の雑木林に隠しておいたのだが、ある日行くとなくなっていた。誰かに盗まれてしまったのだ。しかし本は無くなってもあの暗さはいつまでも私の中に残り続け、私はアンダーグラウンド系の漫画や音楽や映画を好むようになった。

 それから15年ほど経ち、20代後半になった頃、ある日古本屋で適当に本を漁っていたら、あのエロ本を見つけた。手に取って表紙を見るとあの女性がたしかにいる。ビニール袋に入れられて売られていたために残念ながらページをめくることはできなかったが、懐かしさはあった。ただ大人になった私は当時の暗さを感じることができず、かつモデルの女性が全然好みではなく「こんなの見てたんだ」と思っただけで買わなかった。懐古より他に楽しいことがあった。

 それからさらに20年過ぎた。今はあのエロ本が見たくて仕方ない。ページを捲ればきっと一気にあの頃のことが蘇ってくるはずだ。その感覚が欲しくてたまらない。また、ある程度いろいろなことを知った今、当時わからなかったことも理解できるかもしれない。

 時折私は断片的な単語で検索してあの本を探す。しかしいつも見つからず、いつしか朝になっていることに気づくのだ。

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

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