せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第6回「白いポスト」

 子どもの頃、不思議なものを発見した。

 それは白いポストだった。ポストというのは赤いものだと思っていたから「あれはいったい何なんだろう?」と気になった。

 そのポストには「有害図書」と書かれていた。どうやらその「有害図書」を入れるためのポストであるらしい。その頃の私は有害図書と言われてもなんのことだかわからなかったものの、なんとなく近寄ってはいけないもののような空気は感じていた。

 やがて、有害図書というのは子どもに見せたくない本であることを理解し、主にエロ本を指していることを知った。つまりエロ本を入れるポストである。

 そうなると私は白いポストに興味津々となった。意味もなく周りをうろうろし始めたり、遠くからじっと観察したりするようになった。あの中にエロ本が詰まっていると考えると夢が広がった。

 ある日、ポストの投函口から手を入れて取り出すことを考えた。しかしポストは人通りのあるところに設置されていたので難しい。そんな姿を見られたら大人に怒られるだろうし、そこまでの度胸がなかった。それでも何度か試みようと思うのだがいざとなると怖くなった。

 寝る前に布団の中で白ポストに思いを馳せ、「手を入れたところで届かないのでは?」「それなら魚釣りの要領でエロ本を釣り上げれば良いんだ!」などと考え、最高のアイディアを考えた気になり興奮した。紐の先に釣り針のようなものを取り付けて引っ掛けようとか、とりもちのようにガムテープの粘着力を使おうなど具体的なことを考えるようになり、何もかもが上手くいくような気分になった。しかしそれも実行に移せるわけがなかった。結局それも目立つのだ。

 そこで今度は白ポストと同じようなポストを自作し、それをどこかに置いておけば間違って誰かがエロ本を入れるはずだと考えた。この時は釣り作戦の時よりも興奮した。これなら目立つこともない。もちろんこれも考えて終わりだった。似たようなものを作る技術がなかったのだ。

 やがて友だちの誰かがエロ本を持っていたり、落ちているのを拾ったりするようになり、エロ本入手の点ではハードルが高すぎる白ポストへの興味は薄らいでいって、気づくと町から白ポスト自体がなくなっていた。

 それでも未だに白ポストを見つけるとテンションが上がる。先日も甲府駅で見つけてひとり喜び、記念写真を撮った。この白ポストを見て夜な夜な様々な作戦を考える子どもたちがいるんだろうなと思いながら、私は白ポストを後にした。

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

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