せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第8回「自動販売機」

 その昔、エロ本を自動販売機で買う文化があった。

 書店で買う場合は店員と対面しなければいけなくて恥ずかしく、また中高生に売ってくれるわけがない。自動販売機ならその問題点がクリアになった。

 とはいえ、他の問題はあった。まず、自動販売機で購入する場合、人目を気にしなければいけない。私が住んでいた町にはエロ本の自動販売機が知っている限り二台あって、そのどちらも国道沿いにあった。町の中心地からは離れていたものの、絶えず車通りがあって、小さな町であったから知っている人に見つかる可能性も高かったのだ。

 問題はまだあって、自動販売機でエロ本を買ったことがある人ならわかるかもしれないが、選んでいる時間がほとんどなかった。じっくり選んでいるとこれまた誰かに見られるかもしれない。そのためできるだけ早く買うべき本を見極めなければいけなかったのだ。

 また、中身が確認できないのも問題であった。すべては表紙のみで判断しなければいけない。当時、自動販売機用の自販機本というのがあって、それは確かにエロの要素があるのだがそれ以外の記事も多く、内容は大変アバンギャルドであった。エロへのアプローチの仕方が独特であったり、掲載されているエロ漫画が劇画で、シュールであったり、バッドエンドで読後感が悪かったり、なんだか見てはいけない世界に触れてしまった気がして罪悪感が大きくなった。やがてそういう内容の方が好きになってどっぷりと浸かることになるのだが、エロを知り始めたばかりの子どもにとってはもっとストレートなエロの方が良かった。

 数年前に発売された『全国版 あの日のエロ本自販機探訪記』(黒沢哲哉著)を購入してすぐに当時住んでいた町を調べたのだが、あの頃訪れた自動販売機はもうなくなっていたようで載っていなかった。

 それでも当時のことを思い出すことができる

 郊外の自動販売機まで行き、少し離れたところからタイミングを伺い、車が途切れた瞬間に自動販売機までダッシュして、瞬時で買うべき本を見極め、お金を入れる。もちろんスムーズに入れなければいけない。時間のロスは許されない。ボタンを押すと「ガタンッ」と割と大きな音とともに商品が落ちてくる。この音に驚き、誰かに気づかれたのではないかと心配になって周りを見渡した後、すかさず本を取り出して服の下に入れて隠す。

 エロ本の固さとほんのりとした冷たさをお腹に感じながら走ったことを私は今でも覚えている。その時、新緑が輝いていたかもしれないし、秋の木々の葉が色づいていたかもしれないし、夕焼けで国道が染まっていたかもしれないのだが、そういうことは一切覚えていない。

Profile

Profile

せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は『バスは北を進む』(幻冬舎文庫)。
Twitter:@sekishiro

ご契約はこちらから

ご契約はこちらから WEBなら24時間受け付け

テレビでみるなら

WEBでのご加入はこちら

スマホ・PC・タブレットでみるなら

スカパー!アダルトオンデマンド 詳しくはこちら

閉じる