せきしろのアダルトのある風景

あの頃、僕らのまわりには「アダルトのある風景」があったーー。 まぶしくて、恥ずかしくて、手の届かなかった、アレ。 文筆家のせきしろ氏が描く、アダルトにまつわる物語。

第12回「続・メロスを卑猥にする」

 ※前回よりつづく


 ここで最強と思われる言葉の登場だ。

 その言葉とはそう、『出会って4秒で』である。

 少しでもアダルトビデオに興味がある人ならば一度は目にしたことがあるだろう。アリスジャパンの『出会って4秒で合体』シリーズから生まれた言葉である。文字通りすぐに合体するというシリーズで、いわゆる「即ハメ」である。

 調べると第1作目が誕生したのは2008年とのことで、つい最近だと思っていたのにもう12年も前だという事実を知って愕然としたのだが、それはどうでもいいことだ。ちなみに2008年と言えば森進一の『おふくろさん騒動』が解決したことでも有名な年である。

 とにかくこの言葉が卑猥に変える力を持っていないはずがない。私ははやる心をおさえて試してみた。

メロスは出会って4秒で激怒した。

 ところが驚くことにまったく卑猥ではない。これではメロスがすぐに怒っただけである。きっと誰かがメロスを怒らせたのだろう。そうでなければメロスの情緒に問題がありすぎる。

 誰かがメロスの家を訪ねてきて靴を脱がずにそのままあがったのか、玄関のドアを開けて「大型犬の陶器の置物なんかを玄関前に置くタイプなんですね」などと馬鹿にしたのか、いずれにせよ4秒で激怒してもおかしくない。

 私はなんとか卑猥な意味を持たそうと思い、「女性と出会ってすぐメロスは身体を求めたが、女性は最近そういう関係が嫌だなと思っていたところで、もっと映画をみたりどこかに遊びに行きたいなんてことを考えていたからやんわりと断ったら、メロスの機嫌が悪くなった」というシチュエーションを考えてみたが、メロスがただの嫌なやつに思え、同時に自分も若い頃にそういうことがあったのではないかと思い出したりして、卑猥さは微塵も無くなったのだ。

 それにしても「出会って4秒」は予想に反してなぜ卑猥にならなかったのか。その原因を調べてみようと他の文章にも付けてみることにした。「メロスは激怒した」が特別だった可能性もあるからだ。

出会って4秒で西川君が気絶してもうた

 あまりにも早すぎる気絶。ネタの時間を短くしなければいけなかったのか。それとも西川君がネタの最初を飛ばしてしまったのか。その原因はわからないがいずれにせよ卑猥ではない。

出会って4秒でととのいました

 出会ってすぐに謎かけをしてみせたねづっち。謎かけが好きということは十分に伝わってくるものの、卑猥さはない。

出会って4秒で安心してください穿いてますよ

 これは、「この人穿いてない」「警察に通報しよう」などという空気になっていることを察知し、いつもより早めに穿いていることを主張する安村である。卑猥になりそうでならなかった。

 どれも卑猥にならない。その原因を私は考えて、ひとつの結論に達した。

 それは「合体」という言葉がないためである。

 『出会って4秒+合体』という数式があってこその「即ハメ」であり、『出会って4秒』だけなら「即」しかない。大事な「ハメ」がないのだ。

 ならば合体まで入れるしかない。

メロスは出会って4秒で合体して激怒した

 卑猥さは生まれたが、今度はなぜ激怒したかが気になってくる。「もしかしてメロスは合体するまでの過程を楽しみたいタイプなのかな?」などと考えてしまい、結局卑猥な気分にはなれなかったのだ。

Profile

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せきしろ

せきしろ

1970年北海道生まれ。文筆家。 著書に『去年ルノアールで』(マガジンハウス)、『不戦勝』(マガジンハウス)、『妄想道』(KADOKAWA)、『逡巡』(新潮社)、『学校の音を聞くと懐かしくて死にたくなる』(エンターブレイン)、『たとえる技術』(文響社)、『1990年、何もないと思っていた私にハガキがあった』(双葉社)など。又吉直樹氏との共著の自由律俳句集に『カキフライが無いなら来なかった』(幻冬舎)、『まさかジープで来るとは』(幻冬舎)、西加奈子氏との共著に『ダイオウイカは知らないでしょう』(マガジンハウス)がある。 2015年刊行の『海辺の週刊大衆』(双葉社)は又吉氏主演で映画化され、話題となった。最新作は又吉氏との共著『蕎麦湯が来ない』(マガジンハウス)。
Twitter:@sekishiro

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