「ひと昔前は深夜に酔っぱらった男女を乗せると、きまって男のほうが『な、いいだろ?』みたいに誘っていたんだけどね~」
タクシー運転手歴が40年になる尾崎さん(65歳=仮名)は、これまで数えきれないほどの男と女の愛のやり取りを目撃してきた。
「ただ……最近は違うんですね~」
少し言い淀みながら、まずは、こんなエピソードを語ってくれた。
「もう10年ほど前です。深夜の池袋で50代くらいの男性と、20代半ばの水商売ふうの女性を乗せたんです。明らかに男のほうは女性を狙っているけど、女性のほうは早く帰りたい様子。とりえず、調布にある女性の自宅まで送ることになり、首都高に入ったんですね」
首都高を走っていると、男はますます発情状態に。女性の手を握ろうとしたり、耳元で何かを囁いたりと、懸命に口説いていた。しかし、女性は頑なに拒否。そのうち業を煮やした男はトンデモない行動に出た。
「財布からお金を出して、女性に半ば無理やり手渡そうとするんです。要は、ヤラせてくれ、という意味ですね。で、女性の様子をバックミラー越しに見ると、さっきとはうってかわって、まんざらでもない感じになっていたんです」
ただ、会話を聞いていると、女性はどうしても自分の家に男を入れるのだけはイヤなようだった。
すると、男は、
「運転手さん、首都高を適当にぐるぐる回ってくれ」
と言ってきたのだ。
尾崎さんが続ける。
「女性も納得しているみたいだったので、とりあえず言われた通り、首都高を周回することにしたんです」
その理由を理解するまで、そう時間はかからなかった。
「後部座席で二人がイチャつき始めたんですよ。キスはおろか、男のほうは女性の胸も揉み、女性も男の股間を弄りだして。首都高をぐるぐる回らせて、タクシーをラブホ代わりにしだしたんです」
注意しようか迷ったが、首都高を回っていればメーターはどんどん上がるので、放っておくことにした。
これが10年ほど前の話だ。
そしてこの夏のこと。深夜の池袋駅前で、30代半ばと思えるOLふうと、40代くらいの会社員男性を乗せた。
「2人ともかなり酔っぱらっていましたが、恋人同士という雰囲気ではなかったです。この時も、女性の家は調布だったので、まずはそっちに向かって欲しいと男性に言われました」
首都高に乗ると、後部座席で怪しい会話が始まった。
「最初は男が誘っているのかと思いましたよ。でも、違った。女性のほうが『ね、いいじゃん』って、自分の家に誘おうとしていたんです」
対して、男は「今日はもう遅いから」と遠回しに断っていたという。
すると、ビックリ!
「ねえ、運転手さん、首都高を適当にぐるぐる回って」
と言ってきたのは、OLのほう。
「いやあ、驚きましたよ。10年ほど前にも同じことがあったけど、今回は逆で、女性が言ってきたんです。で、戸惑っている男を襲うようにキスをしたり、股間を弄ったりし始めたんです」
なんともはや……いまや女性のほうが積極的で、タクシーをラブホ代わりに使う時代になっていたのだ。
「男性がちょっと可哀想でしたね。タクシーの車内だから逃げ場もなく、かといって相手は年下の女性だし、全力で拒否もできないみたいで、やられるがまま。ズボンのチャックからアレを取り出されて、口で吸引されていましたよ」
さすがに注意しようかと思ったものの、
「まあ、どんどんメーターは上がりますからね。座席を汚されなければいいかな、と。実際、女性はちゃんと口で受け止めていました(笑)」
この道40年ともなれば、この程度のことでは動揺しないようだ。