「男は自分と同年代で50代くらいでしたよ。女性は20歳前後かなぁ。ほんと、父と娘ほど年の離れたカップルで、正直、羨ましかったです」
いわゆるパパ活の可能性も高いが、大場さん(56歳=仮名)は素直にこう振り返る。
カップルを乗せたのは上野駅前で、時間は夜11時を過ぎていたという。
「二人とも酒は入っていましたが、どっちかというと男のほうが酔っていましたね。若い女性とこれからよろしく楽しめるからか、ご機嫌で声も大きい。偉そうに振舞っている感じもありました」
行先は杉並区で、女性が一人で暮らしているマンションのようだった。つまり、男はこれから女性を家まで送って、当然、そのまま女性の部屋にあがる魂胆だろう。
「僕が見る限り、女性もそのつもりのようでした。最初のうちは、お父さんぐらいの年齢の彼に甘えるようによりかかっていましたからね」
男のご機嫌は良くなるばかりで、ルームミラー越しに見た顔も完全ウハウハ状態。
ついには待ちきれなくなったのか、タクシーの車内であるにも関わらず、女性の乳房を服の上から揉み始めたという。
「ちょっとやめて、そういうのは」
女性はやんわりと嫌がっていたが、男はニヤニヤしたまま、
「いいじゃんかよ~」
まるで同世代の運転手に見せつけるかのように、胸を揉みまくっていた。
「実際、自分がルームミラーを見ると、男性とちょくちょく目が合うんです。女性の胸を揉みながらも、明らかにこっちを意識していましたね」
羨ましさがだんだん苛立ちに変わってきたという大場さん。
そして、わざとではないが、
「信号がまだ青だったので行けるかなと思って、アクセルを踏み込んだのですが、黄色に変わったので、やっぱり無理だと……つい急ブレーキを踏んでしまったのです」
すぐさま「申し訳ございません」と謝ったが、ブレーキを踏んだ瞬間、
「キャッ」
だが、それは女性の声ではなかった。
「先ほどまで胸を揉んでいた男が『キャッ』てね(笑)。で、驚いたように両手をグーにして、自分の胸の前でポーズを組んでいるんです。そう、ブリッコの女性みたいに」
まさかのおネエキャラ!? 驚いたのは大場さんだけではなかった。
「いまのなに?」
若い女性も明らかにドン引きで、半笑いしていたという。
男は咄嗟に出てしまった自分の恥ずかしい姿を誤魔化すように、
「気をつけろよ、お前!」
大場さんを怒鳴りつけてきた。
だが、この態度もよろしくなかった。
「最低」
女性は男に吐き捨てるように言った。
大場さんが続ける。
「そのあと、車内は静まり返っていましたね。男もすっかりショゲてしまって、ずっと車の外を睨みつけるように眺めていました。女性は完全にそっぽ向いていて……」
目的地にたどり着くと、女性は最後まで男の顔を一度も見ずにひとりで降りていった。
「女性を降ろした後、その男性の家まで送ったのですが、結局、ひとことも会話がなかったです。いやあ、悪いことしちゃったかなぁ」
大場さんは満面の笑みで、こう反省するのだった。