「今はコロナの影響で宴会も激減していますからね。終電後、お客さんを拾うことも本当に少なくなりました」
ドライバーの片山さん(35歳=仮名)は売り上げが上がらないことに将来の不安を抱えつつ、他に打つ手もなく、その日も駅周辺で着け待ちをしていた。深夜なので列もほとんんど動かない。
「やることもないので、ナビ代わりにダッシュボードに設置したタブレット端末で動画をよく流し観ているんです。たまにはAV動画なんかも……」
ちなみに片山さんは自称「ドM」で、キレイな女優さんにマゾ男が苛められる作品ばかり好んで視聴しているそうだ。
「その日は素人のギャル3人が担任の男性教師を奴隷のように扱うAVを観ていたんです。ギャルたちが男性教師の顔やペニスを踏みながら、『先生、マジ、チ●コ小さい』とか『こんな姿、教え子に見られて恥ずかしくないんですか?』とか、ひどい言葉を浴びせてくるんです。もちろん、イヤホンをして聞いていましたよ」
これで暇な待ち時間も、片山さんにとってはパラダイスになるわけだ。
そんな中、ようやく一人のお客さんを乗せることができた。
「20代半ばくらいのキレイな女性でしたね。水商売系ではなく、普通の企業で働いているOLさん風で、着ている服もお洒落。会話してわかったのですが、男性と食事デートした帰りだったみたいです」
女性はお酒を結構飲んでいる様子で、乗車するなり、片山さんに何かと話しかけてきた。
「彼女の自宅まで首都高に乗って、40~50分かかる距離でした。仕事のことや彼氏のことを、愚痴まじりにずっとしゃべっていましたね」
片山さんも丁寧に受け答えしていたせいか、女性は「運転手さんは、若いし、いい人っぽいよね。まだ独身? 彼女とかいないの? 顔も悪くないから、すぐにできそうなのに~」と、なんとも思わせぶりなことも言ってきた。
「正直、嬉しかったです。よく見ると、顔もSっぽいところもあって」
まんざらでもなかったという片山さん。
やがてタクシーは首都高に入った。運転に気をつけながら飛ばしていると、
「あれ? 何? 変な声しない?」
女性はそのとき、コロナ感染防止のため、車の窓を少し開けていた。風の音のせいで、はっきりとは聞き取れなかったが、
「キャハハ! こいつ、マジうける」
「JKのパンツ、口に咥えて、シコってるよ」
「キモ!」
片山さんが青ざめたのは言うまでもない。
「ちゃんとロックをかけたと思っていたのですが……うっかりしていたみたいで……AV動画の画面のまま、停止ボタンを押していたんですね。で、何かの拍子に、再生ボタンに触れてしまったようで……」
すぐさま動画を止めたいが、運転中のうえ、ましてや首都高である。すぐに停車でき る場所も見つからなかった。
「え? 何、これ……運転手さんのタブレットですよね?」
後部座席にいた女性客もそろそろ気づき始めたようで、
「いや、本当に申し訳ありません」
片山さんは耳まで真っ赤にして謝るばかり。その間にも、
「ほら、出せ、出せ、臭い精子、出せよ」
「女の子に苛められてヨガっているなんて、最低の大人だね。クズ!」
まるで片山さん自身に浴びせるような罵倒がタブレットから響いていたという。
そして、ついには片山さんに思わせぶりな態度を取っていた女性客も、
「……ありえない」
呆れたように吐き捨てて、コロナ対策とばかりに、窓を全開にしたという。
片山さんはこう締める。
「恥ずかしい話、女性に『ありえない』と冷たく言われた時が、一番興奮しました」