「まあ、酔っぱらったお客さんが、普段、誰にも言えないようなことをタクシー運転手に打ち明けることって結構あるんです。とはいえ、あれは衝撃的だったなぁ」
どんなに信頼を置いている親友であっても、言えない秘密というものはあるものだ。
数年前の春先、ドライバーの吉川さん(57歳=仮名)がその日、とある駅から乗せたのは40代半ばくらいの熟女だった。
「見た目はほっそりとした綺麗系の奥さんでしたよ。黒のシックなワンピースが似合っていてね。なかなか色気もありました」
友人数人と飲んだ帰りのようで、時刻は23時を過ぎようとしていた。
「そうだ、最初はお友達と2人で乗ってきたんです。で、先にお友達を自宅の前で降ろした後、その女性の家までお送りするところでしたね」
友人が同乗していた時はさほど酔っているように見えなかったが、1人になった途端、運転手の吉川さんにやたらと話しかけてきたという。
「その内容というのは、先ほどまで一緒にいたお友達の悪口でね。『あの人は真面目過ぎてつまらない』とか『芸能人の不倫のニュースを見て本気で怒っているところがよくわからない』とか。適当に話を合わせていると、だんだん彼女が自分のことを話したがっていることに気づいたんです」
とくに不倫に関して「好きになったのだから仕方ない」「夫にも責任があると思う」といったことを口にしており、ついには自分もいま不倫中であることを告白してきたという。
「きっとお堅い友達には言えない秘密だったんでしょうね。まあ、よくあることです」
女性は酔った勢いもあって、不倫相手との関係も饒舌に語りだした。
「それで、〇〇さん……あ、私がいま好きな人なんだけど、どうしても一緒になれないの。だって、さすがに妹と離婚して、私と再婚なんてなったら、うちの家族バラバラになっちゃうでしょ」
「……え?」
吉川さんが絶句したのは言うまでもない。
なんと、女性の不倫相手は、自分の実の妹の旦那だったのだ。
「いやはや、参りましたね。リアルAVの世界ですよ。しかも、女性は不倫セックスの内容まで事細かに聞かせてくれるんですよ」
セックスは基本ナマだとか、妹の旦那のペニスを咥えていると優越感に浸れるだとか、
「これも話しちゃおうかなぁ。前にね、実家に帰省したとき、妹夫婦も帰っていたの。そのときは、〇〇君と夜中に実家のトイレの中でしちゃった。あれはスリルがあって、すごく興奮した。だって、同じ屋根の下に、うちの旦那と妹が寝ているんですよ。ウフフ」
含み笑いをしながら自慢げに語る女性の美しい顔に、対向車のライトが当たっていた。
「背筋がゾッとしましたね……ほんと、女性って怖いと思いましたよ」
いまも忘れられない恐怖体験だという。
取材&記事:柚月怜(ゆづきれい)
20代の頃より「週刊大衆」の記者として、街の妖しい噂やエロスポットを中心に取材。官能作家として、著書『惑わせ天使』(双葉社刊)もある。